フリフリ編

第四話

帰り道。
魅音はフリフリドレスのままだった。

恥ずかしさで顔も上げられないようだが、ヘビに睨まれたカエルのごとく、 レナの「お願い」を守るだろう。
・・・俺だってあの状態のレナは怖い。

「・・・魅音。俺の背後にくっついて歩くのはよせ」
「だってぇ・・・」
魅音は借りてきた猫のようにおとなしくなっている。
その情けない声を聞いて、再び悪戯心が湧いてきた。
俺は素早く魅音の背後に回り込んで背中を押す。

「ほれほれ、せっかくいいもん着てるんだから、皆に見せびらかそうぜ〜」
「や〜め〜て〜」

ひらひらのドレスと下ろした長い髪は知らない女の子のようで。
しかし、振り返って訴えるような目で見る確かに魅音で。
直視できなくて視線をそらす。
見たいけど見ていられない。

「やっぱり変だよね・・・」
魅音がぽつりとつぶやいた。


魅音は泣きそうな顔でうつむいている。

「な、何言ってんだよ」
「だって・・・圭ちゃん、私の方見てくれないし・・・」
「それは・・・あまりいつもの魅音と違うから・・・」
「やっぱり、似合わないよね・・・私なんかには・・・あははは・・・」

弱々しい笑い声で精一杯虚勢を張る魅音。その顔から雫が一滴地に落ちる。

「魅音!!」
「ひゃっ!?」

視界一杯に魅音の泣き顔が映る。その目から涙を振り落とすように少々乱暴に頭を撫でた。

「なあ、魅音。お前、もっとうぬぼれてもいいんだぞ? 顔だってスタイルだって、その・・・悪くはないんだし。 詩音みたいに・・・はなって欲しくないが、自信持てよ」
「うう・・・だって私は女の子らしくないし・・・」
「・・・今の魅音は十分女の子に見えるぞ」
「本当・・・?」
「ああ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


どうすりゃいいんだこれから!?
「いつもと違う服装の魅音」が見られないんなら、顔だけ見えりゃいい。
だから、思いっきり近づいてみたが・・・少々近づきすぎたかな・・・。

魅音は訴えるような目で俺を見ている。
逃げ出したい衝動を抑えて、魅音の言葉を待つ。

「ねえ、私もまともな女の子になれるかな?」
「当たり前だ!」
破裂しそうな心臓を押さえつけるように叫ぶ。

「じゃあ、キスして」
「ぶっ!!?」
俺は思わず2メートル背後に飛びのいた。

「み、み、魅音・・・!いきなり何言ってんだ・・・!」
「ち、違う・・・!私、何も言ってない・・・!」
俺に劣らず真っ赤になった魅音が必死に否定する。
その魅音の背後に同じ顔した小悪魔一匹。

「おや〜。お二人さん、お邪魔でした〜?」
詩音が小憎らしい顔つきで白々しい台詞を口にする。

「し、詩音!!何しに来たんだよ!?」
惜しい気持ちと助かったという気持ちの板ばさみになりつつ、 やけにタイミング良く現れた詩音を問い詰める。

「何って、たった一人の姉に会いに来ただけですよ〜? 圭ちゃんもまだまだですね、ああいうことは間を置かずに勢いのままにやってしまうもんです」

詩音はやや厳しい表情で呆然としたままの魅音に耳打ちする。
(やっぱりまだ誘ってなかったんですね? 圭ちゃん一人で女物の服なんか選べるわけないんだから、 自分で選ぶから一緒に行こうと言ってデートに持ち込めばいい。そう言いましたよね?)
(ううう・・・。)
(まあ、これはこれで面白いからいいですけどね)

詩音はニヤリと笑って俺の方に向き直った。嫌な予感がする・・・。

「どうやら、『お詫び』はもう済ませたみたいですね。 いや〜、圭ちゃんにこういう趣味があったとは思いませんでした」
「別に、趣味ってわけじゃ・・・」
「へ〜え。じゃ、どんな目的でこの服を選んだんですかあ?」
詩音。お前全部わかってるだろ。

とは言えず、分かれ道まで俺と魅音はさんざん詩音におちょくられ続けた・・・。